コーヒーが冷めないうちに

中国ではなかなか日本の書籍が手に入らないので、最近はKindle中心の生活でした。
しかし、久々に紙の本が手に入ったので、ゆっくり読書することができました。
今回読んだのは、川口俊和の小説『コーヒーが冷めないうちに』です。




あらすじ

舞台は一軒のコーヒー店。喫茶店の名は、フニクリフニクラ。
ここには、タイムトラベルができるというまことしやかな噂ある。
望んだどんな時間にも戻れるが、そこには少し変わったルールがある。

そんな噂を知ってか知らずか、様々な悩みを抱えた客たちが、フニクリフニクラを訪れる。
彼らはタイムトラベルで何を得るのか…。

 

※ここからは少しだけ、ネタバレも含む内容となっています。

 

タイムトラベルのルールが面白い

普通のタイムトラベルの話なら、過去に行って何かを変えたかったり、未来に影響を及ぼすことがあったりと、現代に何かしら影響が出るものです。
しかし、この話では、タイムトラベルの際に少し変わったルールがあります。

 

  • 過去に戻っても、この喫茶店を訪れた事のない者には会う事はできない
  • 過去に戻って、どんな努力をしても、現実は変わらない
  • 過去に戻れる席には先客がいるその席に座れるのは、その先客が席を立った時だけ
  • 過去に戻っても、席を立って移動する事はできない
  • 過去に戻れるのは、コーヒーをカップに注いでから、そのコーヒーが冷めてしまうまでの間だけ

 

実は、このタイムトラベルかなりの制約だらけなんです。
たとえタイムトラベルをしたとしても、喫茶店のフニクリフニクラから出ることはできない。
ましてや、席を立つことすらできない。
なので、タイムトラベルをしたとしても、誰にでも会えるわけではありません。
この喫茶店で起こった過去のことにしか、戻ることができないのです。

 

そんなタイムトラベルに一体何の意味があるのかと思いますが(登場人物も何人かそういう発言をしています)、この絶妙なルール設定によって、内容が何倍も面白くなるんですね。

 

制約の中で過去に戻ろうかどうしようか悩んだり、戻った先でどういう行動をとろうかと焦ったりと、それぞれの人間模様が興味深いです。
ですが、みな何かしらを得て戻ってきます。

各話それぞれが悲しくも、前に進める力をくれる

本作では四つの短編に分かれています。

  1. 恋人の話 … 恋人に一言言いたい
  2. 夫婦の話 … 夫の本心を知りたい
  3. 姉妹の話 … 妹に伝えたい
  4. 家族の話 … 娘に会いたい

 

ざっくりいうとこんな感じです。
短編ですが、全てストーリー上は繋がっています。
読めばわかりますが、伏線も結構出てきて、それが次の話で回収されて行きます。

 

どの話も読んでいて悲しいものばかりです。
過去に戻りたいというのは、何かしら後悔や遺憾の念があるからです。
しかし、過去に縛られてはいけない。
過去を受け入れ、前に進んでいかなければいけないと、前に進もうとする登場人物達の行動にこちらも心打たれます。

この中で、最も心動かされるのは、「家族」の話です。
大きなネタバレになってしまうので、詳しくは書きませんが、タイムトラベルの残酷な一面と救いの一面を感じられました。
私自身同じ場にいたら、どういう選択をするだろうかと考えさせられました。

 

タイムトラベルしたいですか?

人は誰もが過去に戻って、何かを変えたいということはあると思います。
ただ、「戻った所で現実は何も変わらないという」、本書の内容が妙に自分の心の中にストンと落ちました。
たしかに、戻りたい過去はいくつかあるけど、そこに戻って何かをしたからといって、自分の中で何かが変わるわけではないかも。
久しぶりに色々と考えさせられた小説でした。

 

みなさんなら、どの時代に戻りたいですか??

 

 

 

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